TuZino, Taqumi
This document is inspired from the foreword by Kawai, S
in `Binary Hacks' by Takabayashi, S
Geologist is an earth scientist with hammer.
技術の進歩と共に,地質学を取りまく環境も大きく変化した.未踏査域の地質図 を書くためにまづハンマー片手に歩測しながらルートマップを作ったとふのも昔 語りとして聞き流されがちだ.現代の地質学者および地質学の学生院生は最初か ら強力な情報とツールをふんだんに使へる.(えっ,使ヘないって?それは,お たくのボスが予算集めのやる気がないか,能力がないかです).
そんな環境ではアイディアさへあれば,ほいほいデータを集めてきて出来合いの コンセプトで流行に乗っかったtimelyな論文を素早くpublishすることができる. 彼等にいはせると「今時,ハンマーなんて使う時代ではない」.
最先端の道具を使ひこなして優れたアイディアを素早く公表してゆくのは如何に もスマートだ.一方で,この時代に露頭を求めて山奥に分け入ったり(しばし ば薮漕ぎばかりで何もみつかない),露頭でハンマーをふるって岩相をつぶさに観 察したり(その間に蚊に刺される)なんて,まさしく泥くさい.クリコンを駆使し て露頭線を追いかけたり,柱状に余すことなく岩相を記載するやうな職人芸は, 「すごい」とは云はれても,実務に持ち込むことは敬遠されかねない.「そんな 泥くさいことを,ながなか続けても,パッとする業績にはならないから,やめて くれ」
では,なぜ今,ハンマーなのか.
情報と技術の力とは抽象化(抜象)の力だ.泥くさい現場を特定の切り口で, simplifyすることで,関係のない膨大なダメデータ,ダメサンプル2を無視して,考へたい問題にのみ 集中することができる.
だか,抽象化には,それが成り立つ前提が必ずある.鉄で試した実験を銅 で試してゐるうちは(これを鉄銅実験とか鉄銅研究という)前提の存在はほとんど 気にされることはない.ルーチンとは前提を一様に整形した(つもりの)作業のこ とである.しかし,新しいことをやる時,ギリギリのところで研究する時,つま り,フロンティアに立たされると抽象化の壁がほつれてくるのだ.なぜなら, いつでも抽象化は完全ではないからである.
抽象化されたハイレベルな世界で,いくら立派なロジックを組み立てても土台が ぐらついたら,そのロジックはペシャンコだ.それを乗り切るには,少なくとも, ほつれた抽象化の壁の向こう側を知ってゐないとどうにもなれない.
ハイレベルな道具を使うだけの地質学者は,抽象化の箱庭で遊んでゐるようなも のだ.その中でも論文は書けるし,偶然 土台が破綻せずに3残る知見があ れば学問に寄与することもできる.しかし,抽象化の壁に無自覚であるというこ とは,自分の世界の限界に無自覚であるといふことだ.地質学のプロフェッショ ナルとしては致命的である.部外者の批判に耐へられないだけでなく,箱庭の作 者の想定した枠組から抜け出ることができないからだ.
地質学者が自分の世界の限界を認め,壁の向こう側で踏査する時,必ず必要にな
る道具がハンマーである.ゆゑに,
Geologist is an earth scientist with hammer.