デシベル(decibel)の簡単な解説

Taq TuZino

25 July 2006

updated: 28 Dec 2006

Diagnosis

デシベルは,入力と出力あるいはノイズとシグナルなどの比を対数で示したもの で,数が多いほど比が大きいことを示す.入出力系なら出力が大きく,信号系な らシグナルが大きい.デジベルは入出力系では利得(ゲイン),信号系ではS/N比 と呼ばれる.デジベルは対数表示なので実数の比の増加に比べてデシベルの増加 はゆっくりしている.また,比でそのまま扱うと何段も操作を加える時,5倍x10 倍x...と掛け算(積)をしなければいけないが,対数では足し算(和)になるので計 算が簡略化できるメリットがある.たとえば,第一ステップで5倍してから第二 ステップで10倍すると合計は50倍になるが,これを対数のデジベルで計算すると 第一ステップの14dBと第二ステップの20dBを足し,34dbという風に結果を得るこ とができる.

呼称

デシベルはdecibelと綴り,略称としてdBと記す.デシはデシリットルのデシと 同じで,ギリシャ語由来の接頭辞で10分の1という意味である.ベルはベル研究 所で有名な電話を開発したグラハム・ベル(Graham Bell; グレイアム・ベル, グレアム・ベルとも)に因んでいる.

定義

ある基準値$A$に対する$B$のデシベル$G$


\begin{displaymath}
G = 10 \log_{10}{ B \over A}
\end{displaymath}

である.係数の10はデシの10である.この式から利得を与えられた時の出力を求 める式を解くことができる.


\begin{displaymath}
B = 10 ^{G/10} A
\end{displaymath}

電気工学における注意

電気工学ではB/Aは電力(単位時間あたりのエネルギー)で定義されている. しかし,電気の作業で扱うのはもっぱら電圧である. 電力$P$は電圧$V$,電流$I$


\begin{displaymath}
P=VI
\end{displaymath}

の関係にあって,電流はオームの法則より,インピーダンス$Z$


\begin{displaymath}
I={V \over Z}
\end{displaymath}

の関係にあるから,Pを電圧について解くと,


\begin{displaymath}
P={V^2 \over Z}
\end{displaymath}

となる.これをデジベルの定義の式に代入すると,


\begin{displaymath}
G = 10 \log_{10}{ P_B \over P_A} = 10 \log_{10}{{V_A}^2 \ove...
...10}{({{V_A} \over {V_B}})^2} = 20 \log_{10}{{V_A} \over {V_B}}
\end{displaymath}

となり,係数が10ではなく20となる.これは上記の式の通り,電力は電圧の二乗 に比例することに由来する.すなわち,電圧の時は


\begin{displaymath}
G = 20 \log_{10}{ B \over A}
\end{displaymath}

で計算しなければいけない.

換算表

実数比(倍) 利得(dB) 電圧(dB)
1/3 -4.77 -9.5
1/2 -3 -8
1 0 0
1.12 0.5 1
1.26 1 2
1.41 1.5 3
1.58 2 4
1.78 2.5 5
2 3 6
2.51 4 8
3 4.77 9.5
3.16 5 10
4 6 12
5 6.99 13.98
10 10 20
100 20 40

絶対値表示

デシベルは比の対数であるから無次元数であるが,工学では基準値を設定して絶 対値として表示することがある.

音波探査でよく用いるのは

dBSPL (SPLはsound pressure level 音圧) $2\times10^{-5} Pa$を 0dBSPLとす る.

dBV 1Vを0dBVとした時の電圧である.

dBm 1mVを0dBmとする.

対数であることの数学的裏付け

デシベルの式が対数になっているのは,直列で処理する時に掛け算が足し算にな るから便利という他に,人間の感覚的なものと数学的裏付けとあり,対数になる のは必然である.人間の感覚は対数的で,たとえば10倍頭がよくなったからといっ て,10倍ものがよくわかるかというとそうではなくて,せいぜい3倍くらいであ るとか,テレビの音量を10倍にしたところで10倍聞こえるわけではないとか,し ばしば非線型で,対数に近い関係が認められる.デシベルはそういう人間の感覚 に適った尺度といえる.

数学的な裏付けはこうである. 利得の函数を$G()$とする.$G()$は明らかに次の3つを満すだろう.

なにも変化していないのなら,得をしていないので,$G(1)$は0である.

\begin{displaymath}
G(1) = 0
\end{displaymath}

処理1で$p$倍になり処理2で$q$倍になり結果は$pq$倍になった.処理1で得した 部分と処理2で得した部分とは別々なので,$G(p)$$G(q)$とに分離できなけれ ばいけない.かつ,処理を続けて行った結果$G(pq)$と,別々に処理1と処理2やっ た結果の和$G(p)+G(q)$は等しくなければいけない(加法性).


\begin{displaymath}G(pq) =G(p) + G(q)\end{displaymath}

また,$p>q$ならば

\begin{displaymath}G(p) > G(q)\end{displaymath}

の筈である(単調増加).

この三式を満すものは正の対数函数でしかあり得ない(*).QED

補足: 対数の底が10というのは人間が10本指だからであろう.

蛇足(*)の証明:


\begin{displaymath}G(pq) =G(p) + G(q)\end{displaymath}

であるから,たとえば$p=q$ の時は,


\begin{displaymath}
G(p^2) = 2 G(p)
\end{displaymath}

となる.一般化すると,

\begin{displaymath}
G(p^n)=G(p^{n-1})+G(p)
\end{displaymath}

の漸化式が得られるから,これを解くと,

\begin{displaymath}
G(p^n)=nG(p)
\end{displaymath}

となる.同様にある$[q, m]$に対しては

\begin{displaymath}
G(q^m)=mG(q)
\end{displaymath}

となる([$p,n$]を[$q, m$]に入れ換えただけ).

ところで,ある[$p,n, q$]に対して,

\begin{displaymath}
p^n \leq q^m \leq p^{n+1}
\end{displaymath}

となる$m$が必ず存在する.この式の両辺(三辺?)を対数でとっても大小関係は 変わらないから,

\begin{displaymath}
\log {p^n} \leq \log {q^m} \leq \log {p^{n+1}}
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
n \log {p} \leq m \log {q} \leq (n+1) \log {p}
\end{displaymath}

両辺(三辺?)を$m/{\log p}$で除すと,


\begin{displaymath}
{n \over m} \leq {\log {q} \over \log p} \leq {{n+1} \over m} \eqno(1)
\end{displaymath}

となる. また,$G()$は引数の大小関係が保存されるので,


\begin{displaymath}
n G(p) \leq mG(q) \leq (n+1)G(p)
\end{displaymath}

これも $m/{\log p}$で除すと,


\begin{displaymath}
{n \over m} \leq {G(q) \over G(p)} \leq {{n+1} \over m} \eqno(2)
\end{displaymath}

(1)式および(2)式から,


\begin{displaymath}
\vert {G(q) \over G(p)} - {{\log q} \over {\log p}} \vert \leq {1 \over m}
\end{displaymath}

は, 任意の$m$に対して常に成り立つ(わからなかったら,成り立たなかったらど うなるか背理法で証明せよ).$m \to \infty$とすると,


\begin{displaymath}
{G(q) \over G(p)} ={{\log q} \over {\log p}}
\end{displaymath}

が導かれる.この式を変形すると,


\begin{displaymath}
{G(p) \over {\log p}} ={ G(q) \over {\log q}}
\end{displaymath}

これは比が一定という意味である.この比を,定数$k$としてやると,


\begin{displaymath}
G(p) = k \log p
\end{displaymath}

となる.これでほんとのQED.