ca.は時間に対して使ふべきで距離に対して使ふべきにあらず.

馗埜 匠(ΤαQυμι ΤυΖινο)

題のとほり.特に書くことはない.

ca.はラテン語circaの略語で,「およそ,約」といった意味で使はれる.過去の 自分も含めて,"ca. 10 km"のやうにca.を距離に対して使ふ場合があるが,これ は間違いである.とはいふものの,英語母語者でも間違って使ってゐることが多 い.そのうち誤用が正用になるかもれない.

ただし,関連語にcircadianという語があり,これは「約24時間間隔の,おおよ そ周日の」といふ意味であるから,circaを距離を含めた,単なる「約」にして しまうと語構成が見えにくくなってしまう.逆にcircadianといふ語を知ってゐ るものならば,時間以外でcircaを「約」といった意味に使ひたくないだろう.

もともとのラテン語には,距離に対して「約」といふ意味はない.ただ,どの語 についても,語源をいいだすと,ほとんどの語は原義の転用か誤用だったりする ので,語源をもって現在の語の使い方に是非をつけることはできない.そんなこ とをしたら,たいていの語は由緒正しくない語となってしまう.逆に,もとの意 味がこうなのに,現在は ぜんぜん違う意味で使ってゐるとふ例の方が目につい てしまふ.原義から転用・誤用により言語は変化してしまうのが言語の動態であ り,語源は補助的な意味で考慮に含めるにとどめておいたほうが,滑りにくい考 察をすることができる.

備考:ca.は他に,c., cir., circ., cca.と略されることがある.